松柏社 (2007/6/20)
「しみじみ」をキーワードに、イギリスおよびアイルランドの作家の短編小説を集めたもの。しかし「しみじみ」を感じさせる作品はそんなになくて、ちょっと企画は成功していないように感じる。
- 「敷物」エドナ・オブライエン
- 「ある家族の夕餉」カズオ・イシグロ
- 「ドイツから来た子」ロン・バトリン
- 「はじめての懺悔」フランク・オコナー
気にいったのは上の四篇で、なかでも「はじめての懺悔」が抜群に良かった。ユーモラスで温かくて、読みながら文字通り笑顔になる作品。
ストーリーは「七歳のジャッキーが、死ぬほど恐れていたはじめての懺悔を無事に終えました」というシンプルなもの。だけど、そこに至るまでの、子どもならではの妄想と大げさな恐怖、意地悪でいい子ぶりっ子な姉との関係、同居しているお祖母さんの描写、地獄で頭がいっぱいの教育係である「婆さん」の話、ちょっと型破りな神父さんの言葉など、それぞれのエピソード、会話がどれも明るい微笑ましさにあふれている。
フランク・オコナーは初めて読んだけど、これは他の作品も読まなければ、と思った。関係ないが、フラナリー・オコナーを買おうと思って書店の棚を見ていて、よく見間違っていたのがフランク・オコナーだった。もっと早く手にとってみればよかった。
エドナ・オブライエン「敷物」は、面白かったのは確かなんだけど胸が痛くなる一篇で、再読はしないだろう。
カズオ・イシグロ「ある家族の夕餉」はものすごく深読みを誘う一篇。結論のみならず、語られるエピソードがどれもどうとでも解釈できそうな話で、これもとても面白かった。