「本の栞にぶら下がる」斎藤真理子 岩波書店 (2023/9/14)
- 岩波書店のPR誌「図書」に連載されたものをまとめた本
- 書評じゃなくて「読書エッセイ」なのが良い
>記憶の中の本棚の上段に、いろんな本が入り乱れ、雑多に積み上がっていて、一本の栞を引っ張ると他の本もつられて動く。スピンに他の本の記憶がぞろぞろとぶら下がり、連なり、揺れている。そんな眺めについて書こうと思う。
著者は韓国語を専門とする翻訳者で、訳書にはベストセラーとなった「82年生まれ、キム・ジヨン」のほか、2024年のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンの作品もある。
本のカバーの袖に書かれた紹介文には「読書エッセイ集」とある。この本は「書評」ではなく「読書エッセイ」という形態で書かれていて、それが自分にはとても魅力的に感じた。たんなる本の紹介より、その本と著者の生活や人生との関わりも書かれている「読書エッセイ」のほうが読んでて面白くないですか?
例えば、鶴見俊輔「思い出袋」(岩波新書)について。「思い出袋」は、『図書』に掲載された短いコラムを集めた本だ。そのころ著者は、コロナ疲れやハードな仕事、オリンピックなどの世間の出来事に腹をたてていたこともあって「ちょうど、本が読めなくなっている時期だった。」
そのころ読んだ「思い出袋」の読みやすさを、著者はふりかけに例えてこう書いている。
>例えば、食欲がガタンと落ちて、お粥にして、お粥からご飯に戻ったのだが、ちゃんとしたおかずがまだ食べられない。でも白米だけというのは味気なくて、何か欲しい……ふりかけぐらいなら……美味しいふりかけがあれば……という感じのときだったので、『思い出袋』は役立った。
また、著者は編み物をしながら本を読むくせがあって、編みながら読む本(著者いわく「編み本」)は決まっているとのこと。
>最も活用したのは、文句なしに谷崎潤一郎の『細雪』だと思う。この文庫本全三巻とともに、セーター三十枚ぐらい編んだのではないだろうか。
他の編み本としては、金井美恵子『恋愛太平記』『噂の娘』、森茉莉『贅沢貧乏』『貧乏サヴァラン』、武田百合子『富士日記』などが挙げられている。
他には、著者の専門である韓国文学の作家についてもページが割かれている。韓国の現代文学の作家たち、たとえばハン・ガンとかチョン・セランといった人気作家よりもひとつふたつ前の世代の作家たちについての話が多く、この本を読まなければ全く知る機会もなかっただろう。
ちょっと古い日本文学や詩集、また、そこまで有名ではない作家とその作品についての話もある。もしくは、昔は有名だったが最近は言及されることが少なくなった作家、たとえば森村桂、中村きい子とか。森村桂と言えば「天国に一番近い島」を連想するくらいで実際に読んだことはなかったので、へーこういう作風だったのか、こういう人だったのか、という驚きがあった。